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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
訪問者と聞いたとき、畑はふと不吉な予感におそわれた。漠然としたものではあったが、まったく無根拠ではなかった。彼は妻をよんで訊いた。
「子供たちは寝たか」
「はい、寝ております」
「すぐに起こせ」と畑は云った、「二人とも起こして、おまえ宮本へつれてゆけ、おまえがつれてゆくんだぞ」
「こんな時刻にですか」
「わけはあとで話す、いそいでゆけ」
妻女は立っていった。彼女は子供達を起こした。どちらもまだ眠ってはいなかった。虎之助はとび起きて、よろこんで云った。
「どうするの、また遊ぶの」
「静かになさいな」
宇乃がそう云った。宇乃は十三歳であるが、躯つきも大きく、顔もおとなびてみえ、気持もませていた。彼女は母親のようすで、なにかただならぬ事が起こったのだと直感した。それで着替えを終ったときには、もっとおとなびた顔つきになった。
「遊ぶんじゃないの」と虎之助が母親に訊いた。
母親は帯をしめてやりながら「静かになさいな」と云った。虎之助は姉の顔を見て、そして黙った。支度のできた二人をつれて妻女が裏から家を出たとき、客間のほうで高い叫び声と、足踏みをするような物音が聞えた。
「あれ、なに、お母さま」