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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁

青空文庫

とたつ女は云った、「たぶん、――そのときが来れば、わたくしにこんなことを教えられたことを、たぶんあなたは恥ずかしくお思いになるでしょう、でもしかたがなかったのです、あなたにはお母さまがいらっしゃらないのですからね、わたくしがしてさしあげるよりほかに、しようがないのですから」

云いかけて、たつ女は指でそっと、両の眼がしらを押え、それから気を変えるように云った。

「お支度ができたらまいりましょう」

三人で門を出るとき、宇乃は振返って、邸内をなつかしそうに眺めやった。もうこのお邸へも戻ることはないだろう。宇乃はそう思いながら、ちょっと眼をつむった。

――お父さま、お母さま。

虎之助さんを護ってあげて下さい。と宇乃は心のなかで云い、それから歩きだした。

良源院は増上寺の塔頭で、伊達家の宿坊になっていた。増上寺で将軍家の年忌行事などのあるとき、それに列する藩主や重臣が、そこで装束を改めたり休息したりするのである。それで藩主のための客殿もあるし、重臣たちの部屋も定っていた。

たつ女と畑姉弟は、方丈と同じ棟にある客間へとおされ、そこで原田甲斐の来るのを待つことになった。