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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 頁
がまた出なければいいが、と心配になって来た。で、それまで先生の白墨について動かしていた視線をそらし、最初からの一行一行を念入りに見直した。すると三行目から四行目にうつるところで、マイナスとあるべき符号が、プラスになっているのを発見したのである。彼は、自分の思いちがいではないかと、二度ほど見直したが、やはりそうにちがいなかった。
「先生!」
と、彼は、我知らず叫んだ。先生はもうその時には、右の黒板に二行ほど書き進んでいたところだったが、次郎の声で、びくっとしたようにふり向きながら、
「何じゃ、質問か。質問なら、あとでせい。」
「質問じゃありません。あすこに符号が間違っています。」
次郎は、先生を安心させるつもりでそう答えた。
「何? 間違っている? どこが間違ってるんじゃ。」
先生のふだんのあから顔は、もうその時までにいくぶん蒼ざめかかっていたが、それで一層蒼くなった。掌は例によって腰の両側に蛙のように拡がっていた。
「三行目から四行目にうつるところです。」
先生の眼は、犯人の眼のように、三行目と四行目との間を往復した。そしてその時には、もう方々からくすくすと笑い声が聞え出していたのである。