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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 頁

青空文庫

そこで彼は涼しい風に吹かれながら、ぐっすり眠った。眼がさめたのは昼過ぎだった。腹がげっそりと減っている。それに何よりも喉が乾いて堪えられないほどだ。

彼は起き上ると、八方に眼を配りながら、座敷の縁に忍びよった。そして縁板に足のよごれをにじりつけてから、足音を立てないように茶の間の方に行った。

そこには誰もいなかった。もう昼飯がすんだあとらしく、ちゃぶ台の上には薬罐と飯櫃だけが残されていて、蠅が五、六匹しずかにとまっている。

彼はあたりを見まわしてから、薬罐から口づけに、冷えた渋茶をがぶがぶと飲んだ。それから飯櫃の蓋をとって、いきなりそのなかに手を突っこんだ。

「誰だい。」

だしぬけに台所からお民の声がきこえた。次郎はびっくりして手を引いたが、その五本の指には飯が一握りつかまれていた。彼はあわててそれを口に押しこみながら、座敷の方に逃げ出そうとした。

しかし、もうそれは遅かった。座敷の敷居をまたぐか、またがないかに、彼は襟首をお民につかまれていたのである。

「お前は、お前は……」

お民の声は、怒りとも悲しみともつかぬ感情で、ふるえていた。

それから次郎は、ちゃぶ台の前に引き据えられて、ながいことお民と対坐しなければならなかった。