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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《武州公秘話(ぶしゅうこうひわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 頁
少年は城の生活には馴れていたけれども、陣屋の小屋割りを見るのは今宵が始めてゞあるから、その垣の内へ忍び入ったゞけでも少からぬ好奇心の満足を覚えた。彼は既に陣中にある以上、女装をすることは却って不審を招く基だと感じたので、被っていた被衣を、小さく畳んで懐に入れた。そして鮮やかな月の光が写し出す真っ黒な建物の影から影へと、飛鳥の如く身を躍らせて伝わりながら、立ち並ぶ陣小屋の軒に身を寄せて一軒々々窺って行った。少年に取って仕合わせなことには、ところ/″\の篝り火の明りが月光のために効果を殺されて、へんに白っぽい煙のようになっているのである。それに、まんべんなく照り渡っている月は下界をすべて銀色に反射させ、透き徹った秋の夜の空気の耳にある物が、どんな微細なものまでも皆キラキラと眩ゆい燐光を発しているので、その極端な明るさが見張りの者の展望を妨げているのである。少年は、或る所では火を囲んでうずくまっている番兵の傍を通り抜けたり、或る所では望楼の真下の方へ、地上に帯の如く倒れているその影を利用して近寄って行ったりしたけれども、誰も見咎める者はなかった。籠城方がもう本丸まで追い詰められた際であるから、恐らく物見の兵共も油断して寝ていたのであろう。