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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

と、お君は眼をうるませていた。

「そうかい」

林之助は指さきで眼がしらを撫でると、お君はもうしくしくと泣いていた。

「楽屋の者も看病に来てくれるかい。お花もお若も……」

みんな出掛けに一度ずつは見舞いに来てくれるが、親身に看病してゆく者もないと、お君は頼りなげに言った。それでも豊吉はゆうべ来て、四つ少し前までいてくれたと話した。世間にはうわべばかりの親切が多いと、林之助はつくづく思った。しかし振り返ってみると、自分もその仲間ではないかとも危ぶまれた。彼は自分で自分の不人情を責めた。

「わたしは主人持ちで、思うように看病にも来ていられないからね。気の毒だけれども、姐さんの世話はお前ひとりに頼むよ。もし急に模様でも変るようなことがあったら、豊吉にたのんで私のところへ報せをよこしておくれ。豊吉はわたしの屋敷を知っているから」と、林之助はお君にささやいた。

お君は目を拭きながらうなずいた。そうして、姐さんを起しましょうかと訊いた。

「いや、折角よく寝ているものを無理に起さない方がいい」

二人は黙って火鉢の前に坐っていた。

そのうちにお君は薬鍋を持ち出して来て、火鉢の上で煎じはじめた。