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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《泥棒と若殿(どろぼうとわかとの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 頁
しだいに声が激しく、調子もぐんぐん強くなった。
「これまでも滝沢どの一党の専断は眼にあまるものがあり、大殿にもよほど御心痛あそばされたとうかがっております、兵部さま御瘋疾のあとより、若殿を御世子になおし、それによって重職の交替と、政治の更新とを御思案あったと承わりました、――さればこそ梶田どのはじめわれら同志の者は、骨を砕き肉を削るおもいでやってまいったのです、御家のため、政治を建てなおすため、ひいては七万五千石の領民のために、……そうしてようやく今日という時がまいりました、この日のためにみな身命をなげだして働いたのです、――若殿、こなたさまはこれらの者を捨てて、自分おひとりだけ安穏に暮したいとおぼしめしますか」
いつか成信は眼を伏せていた。久左衛門は声をやわらげ、そっと息をついて続けた。――人間には身分のいかんを問わずそれぞれの責任がある、庶民には庶民の、侍には侍の、そして領主には領主の、それぞれが各自の責任を果してこそ世のなかが動いてゆく。領主となって一藩の家臣をたばね、領民の生活をやすんずるよき政治を執るということは、市井のひとになるよりは困難で苦しい。