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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《泥棒と若殿(どろぼうとわかとの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 頁

青空文庫

十一

彼の相貌はひきしまり、あたりを見廻す眼には強い意志のいろがあらわれた。

「――伝九、……おれは帰るよ」

口のなかでそっと呟やき、風のわたる晴れあがった空へと、かなしげに眼をやった。

伝九郎が帰って来たとき、成信は竈で汁を拵えていた。頭から灰まみれで、煙にまかれたのだろう、眼のまわりを黒く汚していた。伝九郎はびっくりし、とんで来て、彼の手から火吹き竹をひったくった。

「なにをこんな、おめえがなにもこんなことをするこたあねえじゃねえか、冗談じゃねえ、お天気が変らあ」

「――今日はおれがするよ、わけがあるんだ」

「わけがあったっておめえに出来るこっちあねえ、おれが代るから向うへいって」

「――いや、もう済んだんだ」

成信は鍋の蓋をとり、笊にあげてあった刻み大根を入れた。

「――飯も炊けたし、魚も焼いてある」

「こいつあびっくり仰天だ、冗談じあねえ、せっかく続いていた日和が、これできっとおじゃんになるぜ」

「――まあ足を洗え、そして飯にしよう」

十一

食膳に向うと伝九郎はもういちど驚ろいた。

「おめえこれあ、これあどうして、ちゃんとしたもんじあねえか」

「――ちゃんとしたもの、とは、なにがだ」