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〔『しなしそうとにほん』しょはん〕まえがき

津田左右吉歴史論集

津田 左右吉

線上閱讀津田 左右吉《津田左右吉歴史論集(〔『しなしそうとにほん』しょはん〕まえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 79,004 字 · 156 頁

青空文庫

日本人は生きている。生きている日本人の国民性も民族的趣味も決して固定したものではない。だから、過去の趣味は歴史的事実として真実であっても、将来の規範とせらるべきものではない。日本人が淡泊で、清楚で、軽快な趣味をこれから後も持続しなければならぬという理由はどこにもない。今さららしくいうまでもないことであるが、世間にはまだ、凝固した国民性というものがあり、またなくてはならぬように思っている人もあるから一言して置くのである。

のみならず過去の日本人の趣味が淡泊とか軽快とかいう方面にのみ向いていたということ、そのことが第一怪しいのである。遠い昔の平安朝を見たまえ。『源氏』や『枕』や、今は殆ど遺っていないが当時の宮廷や貴族の調度に用いられた屏風絵に現われている濃艶華麗な服装を。肉感的逸楽の気が沁み渡っていた浄土教の宗教画として今も伝わっている弥陀来迎の図などのコッテリした色彩を。胡粉も落ち、臙脂も褪め、緑青の色もあせた今から見れば、かの高野山の二十五菩薩の大幅も、いかにも落ちついた、和かい色調のように見えるが、画かれた当時は艶麗双びなきものであったであろう。