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うずまけるからすのむれ

渦巻ける烏の群

黒島 伝治

線上閱讀黒島 伝治《渦巻ける烏の群(うずまけるからすのむれ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,240 字 · 35 頁

青空文庫

それは全く凄いものだった。衛兵は総がかりで狼と戦わねばならなかった。悪くすると、腋の下や、のどに喰いつかれるのだ。

薄ら曇りの日がつづいた。昼は短く、夜は長かった。太陽は、一度もにこにこした顔を見せなかった。松木は、これで二度目の冬を西伯利亜で過しているのであった。彼は疲れて憂欝になっていた。太陽が、地球を見棄ててどっかへとんで行っているような気がした。こんな状態がいつまでもつづけばきっと病気にかかるだろう。――それは、松木ばかりではなかった。同年兵が悉く、ふさぎこみ、疲憊していた。そして、女のところへ行く。そのことだけにしか興味を持っていなかった。

ガーリヤは、人眼をしのぶようにして炊事場へやって来た。古いが、もとは相当にものが良かったらしい外套の下から、白く洗い晒された彼女のスカートがちらちら見えていた。

「お前は、人をよせつけないから、ザンパンが有ったってやらないよ。」

「あら、そう。」

彼女は響きのいい、すき通るような声を出した。

「そうだとも、あたりまえだ。」

「じゃいい。」

黒く磨かれた、踵の高い靴で、彼女はきりっと、ブン廻しのように一とまわりして、丘の方へ行きかけた。