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せんこうてい「ハビヒツブルグ」

潜航艇「鷹の城」

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《潜航艇「鷹の城」(せんこうてい「ハビヒツブルグ」)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,395 字 · 263 頁

青空文庫

その男は、再びもとの酔いどれ口調に返って、襟を立てながら渡舟のなかに蹌踉き込んだ。巡査は、なにか得体の知れない魔性の霧に包まれたような気がして、しかし、屍体はあるぞとまた現実に戻るのであった。

水量の増した、河面をゆるく推進機が掻きはじめ、この神秘の男を乗せた、船尾灯が遠く雨脚のなかに消えてゆくのだった。

「江藤警部補、これはいったい、どうしたということなんです。貴方は、あの不審な男を渡船に乗せてしまって……」

その若い巡査は、やっと夢から醒めたように、警部補になじりかかった。しかし江藤警部補は、いきまく部下を、優しく宥めるように見て、

「なるほど、事情を知らん君は、そう思うだろうがね。いまの男を、君は誰だと思う。知っておるじゃろう――つい四、五年まえ、主任検事級で鳴らした左枝八郎という方を……」

「ああ、左枝八郎……」

しかし巡査にとると、いまの男が左枝八郎であるということは、むしろ無名氏で置くよりも、いっそう不可解なことだった。

「だが、どうにもそれは信じられませんよ。あの変りかたは、いったいなんということです。左枝八郎ともあろう人が、『欧航組』の、組織を木葉微塵に叩き潰した方が、なんという……」