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せんこうてい「ハビヒツブルグ」

潜航艇「鷹の城」

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《潜航艇「鷹の城」(せんこうてい「ハビヒツブルグ」)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,395 字 · 263 頁

青空文庫

上がり、沈み消えしては踊り乱れるのだった。

が、そうしてああでもないこうでもないと、もの狂わしい循環論の末には、いつか知性も良識も、跡方なく飛び散ってしまって、まったく他の眼から見たら、滑稽なほどの子供っぽさ、いたずらに神話の中を経めぐったり、あるいは形相凄まじい、迷信の物の怪に怯えたりなどして、検事はしだいに夢を換え、幻から幻に移り変って行くのだったが、やがて終いには、その深々とした神秘、伝奇めいた香気に酔いしどれてしまって、譫妄にも、殺人事件の犯人などどうでもよいと思われたほど、いまや彼の感覚は、まったく根こそぎ奪い尽され去ってしまった。

そのおり、黄昏の薄映えは、いぜん波頭を彩っていたけれども、海霧は暗さを増す一刻ごとに濃く、またその揺動が、暗礁を黒鍵のように弄んで、それが薄れ消えるときは、鈍い重たげな音を感ずるのである。

やがて、海霧の騎行に光が失せて、大喇叭のような潮鳴りが、岬の天地を包み去ろうとするとき、そのところどころの裂目を、鹹辛い疾風が吹き過ぎて行くのだが、その風は氷のように冷たく、海霧はまた人肌のように生ぬるかった。

そうして岬の一夜――まこと彼ら二人にとれば、その記憶から一生離れ去ることのないと思われるほど、おぞましい、悪夢のような闇が始まったのである。