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しょうねん
潤一郎ラビリンスI――初期短編集
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスI――初期短編集(しょうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 頁
お帰りには私がお宅までお送り申しますから、お心配なさらないようにお家へ断っていらっしゃいまし」
「あゝ、それじゃ左様なら」
こう云って、私は子供の方を向いてなつかしそうに挨拶をしたが、信一は例の品のある顔をにこりともさせず、唯鷹揚にうなずいたゞけであった。
今日からあの立派な子供と仲好しになるのかと思うと、何となく嬉しい気持がして、日頃遊び仲間の髢屋の幸吉や船頭の鉄公などに見付からぬように急いで家へ帰り、盲縞の学校着を対の黄八丈の不断着に着更えるや否や、
「お母さん、遊びに行って来るよ」
と、雪駄をつッかけながら格子先に云い捨てゝ、其の儘塙の家へ駈け出して行った。
有馬学校の前から真っ直ぐに中之橋を越え、浜町の岡田の塀へついて中洲に近い河岸通りへ出た所は、何となくさびれたような閑静な一廓をなして居る。今はなくなったが新大橋の袂から少し手前の右側に名代の団子屋と煎餅屋があって、其のすじ向うの角の、長い/\塀を繞らした厳めしい鉄格子の門が塙の家であった。前を通るとこんもりした邸内の植込みの青葉の隙から破風型の日本館の瓦が銀鼠色に輝き、其のうしろに西洋館の褪紅緋色の煉瓦がちら/\見えて、いかにも物持の住むらしい、奥床しい構えであった。