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らどうせんせい
潤一郎ラビリンスII――マゾヒズム小説集
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスII――マゾヒズム小説集(らどうせんせい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,093 字 · 33 頁
記者は奇術が好きなのではないが、此の一座には往年の歌劇の残党が加入していて、その中に二三の顔馴染があったものだから、なつかしくなって立ち寄ったのである。そして楽屋を訪ねた帰りに舞台の袖から演技を見ていると、その時図らずも不思議なものに眼が止まった。オヤオヤ、此れはおかしいぞ、蘿洞先生がこんな所に来るのかしら?―――記者は最初は人違いであると思った。と云うのは、今しも舞台では奇術の合間にバレエ風の女優の踊りが始まっていて、五六人の若い踊り児のはだかの脚が入り乱れつゝある向うに、客席の一番とッ鼻からそれを見物しているお客の顔が、見れば見るほど蘿洞先生に似ているのである。尤も舞台とその顔との間には一列の脚光がぎら/\燃えているためにはっきり見定めにくいのだが、口を半分ほど開けて、白い歯を出して、にや/\しながらひっつりのような薄笑いを浮かべつゝ見ている表情は、あのいつぞやの無気味な笑い方にそっくりである。勿論記者の位置からは顔の下はよく分らない。たゞ顔だけが、曝し首のように舞台の地平線の上へ出ている。先生の顔はたしか青ん膨れであったのに、その顔は赤味を帯びているのが違った感じを与えるけれども、それも脚光の反射のせいであるかも知れない。