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らどうせんせい
潤一郎ラビリンスII――マゾヒズム小説集
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスII――マゾヒズム小説集(らどうせんせい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,093 字 · 33 頁
蘿洞先生
A雑誌の訪問記者は、蘿洞先生に面会するのは今日が始めてなのである。それで内々好奇心を抱いて、もうさっきから一時間以上も待っているのだが、なか/\先生は姿を見せない。取次に出た書生の口上では「まだお眼覚めになりませんから」と云うことだった。寝坊な人だとは記者もかね/″\聞いていたから、その積りで来たのだけれど、何ぼ何でも既に十二時半である。三月末の、彼岸桜が咲こうと云う陽気に、午過ぎ迄も寝ている者があるだろうか。記者はそう思って、すき腹を我慢しながら、応接間の硝子戸越しに、うら/\と日の照っている庭の方を眺めていた。
東京の郊外の邸としてはそんなに廣い庭ではないが、手入れは可なり行き届いている。せいの低い、煉瓦の柱の表門から、正面のポーチへ通ずる路の両側に躑躅が行儀よく植えられて、その向うには芝生がある。それから瓦で四角に仕切った花壇などもある。独身者の蘿洞先生は、書生や下女を相手にして草花いじりをやるのだろうか。尤も手入れが届いているのは庭ばかりでなく、たとえば此処の応接間にしても、甚だ清潔で居心地がよい。A雑誌記者は職掌柄、学者や政治家や実業家や、いろ/\の人の応接間を見たが、さすがに此処の先生は長く西洋にいたゞけあって、額の懸け方、家具の置き場所、壁と窓掛けの色の調和など、よく考えてあるらしい。