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ぼくとうきだん

濹東綺譚

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《濹東綺譚(ぼくとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,666 字 · 114 頁

青空文庫

」

「上着だけおぬぎなさい。ほんとに随分濡れたわね。」

「ひどく降ってるな。」

「わたし雷さまより光るのがいやなの。これじゃお湯にも行けやしない。あなた。まだいいでしょう。わたし顔だけ洗って御化粧してしまうから。」

女は口をゆがめて、懐紙で生際の油をふきながら、中仕切の外の壁に取りつけた洗面器の前に立った。リボンの簾越しに、両肌をぬぎ、折りかがんで顔を洗う姿が見える。肌は顔よりもずっと色が白く、乳房の形で、まだ子供を持った事はないらしい。

「何だか檀那になったようだな。こうしていると。箪笥はあるし、茶棚はあるし……。」

「あけて御覧なさい。お芋か何かある筈よ。」

「よく片づいているな。感心だ。火鉢の中なんぞ。」

「毎朝、掃除だけはちゃんとしますもの。わたし、こんな処にいるけれど、世帯持は上手なのよ。」

「長くいるのかい。」

「まだ一年と、ちょっと……。」

「この土地が初めてじゃないんだろう。芸者でもしていたのかい。」

汲みかえる水の音に、わたくしの言うことが聞えなかったのか、又は聞えない振りをしたのか、女は何とも答えず、肌ぬぎのまま、鏡台の前に坐り毛筋棒で鬢を上げ、肩の方から白粉をつけ初める。