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ぼくとうきだん

濹東綺譚

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《濹東綺譚(ぼくとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,666 字 · 114 頁

青空文庫

マルクスを論じていた人が朱子学を奉ずるようになったのは、進化ではなくして別の物に変ったのである。前の者は空となり、後の者は忽然として出現したのである。やどり蟹の殻の中に、蟹ではない別の生物が住んだようなものである。

われわれ東京の庶民が満洲の野に風雲の起った事を知ったのは其の前の年、昭和五六年の間であった。たしかその年の秋の頃、わたくしは招魂社境内の銀杏の樹に三日ほどつづいて雀合戦のあった事をきいて、その最終の朝麹町の女達と共に之を見に行ったことがあった。その又前の年の夏には、赤坂見附の濠に、深更人の定った後、大きな蝦蟇が現れ悲痛な声を揚げて泣くという噂が立ち、或新聞の如きは蝦蟇を捕えた人に金参百円の賞を贈ると云う広告を出した。それが為め雨の降る夜などには却て人出が多くなったが、賞金を得た人の噂も遂に聞かず、いつの間にかこの話は烟のように消えてしまった。

雀合戦を見た其年も忽ち暮に迫った或日の午後、わたくしは葛西村の海辺を歩いて道に迷い、日が暮れてから燈火を目当にして漸く船堀橋の所在を知り、二三度電車を乗りかえた後、洲崎の市電終点から日本橋の四辻に来たことがあった。