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いちろうじん
犬田卯短編集二
犬田 卯
線上閱讀犬田 卯《犬田卯短編集二(いちろうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,383 字 · 103 頁
ところで、几帳面に、雪空にも拘らず出張して来た弁護士が、二人の事務員を使って、せっせと書きものをしている一室へ通された。やがて此方へ向き直った博士に、ぼつぼつ事情を訴えたが、博士のいわく、若旦那からは何もきいていない。たとい聞いていたにせよ、この方のことはいっさい自分が責任を負っているので、若旦那には口を出す権利はない……。流暢な東京弁で一気にまくし立てられるばかりか、その隼のような、じっと見据えられる眼に出遇っては、儀作はもはや一言も口がきけなかった。そこには、何か眼に見えぬ、冷厳な重圧が渦をまいていて、人を慄然たらしめるもの以外、何物も存在しなかった。
燃えさかるストーブの火と博士の弁舌にすっかり汗をかいてしまった儀作は、阿呆のような恰好で古谷邸を辞去した。さて、あの博士に対抗して口のきけるのは、例の『荒蕪地』の払下げについての村人のすべての借金の奔走をした前村長ばかりではあるまいか。二三日して彼はふとそんなことを考えついた。で、いまは自分の部落の区長をしているその老人のところへ、のそりと出掛けて行ったのである。すると前村長は、
「うむ、それは何とか俺が談判してやりもしよう。