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いちろうじん

犬田卯短編集二

犬田 卯

線上閱讀犬田 卯《犬田卯短編集二(いちろうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,383 字 · 103 頁

青空文庫

として世に立つべく修業し、写生旅行に、この風光明媚の沼岸へやって来たというのであった。

M教師は酒肴を出しつつ、

「はア、そうですか、この村には小川芋銭先生がおられますが、ご存じですか」

すると男爵は視線をあちこちさせて、

「小川……小川、先生……そう、あの方は帝展でしたな。有名な方ですな。」

「いや、院展の方で……」と正直なM教師は答えたが、相手が、

「あ、院展でしたな、そう、そう院展の……」

明らかに狼狽した返答に接すると、こいつは……と考えざるを得なかった。

雑談数刻、風呂がわいたという知らせに、男爵は、M教師の妻君から手拭を借りて風呂場へ立った。

その間に、M教師は弟のように可愛がっているという画家――美校出身の、そして芋銭先生の弟子であるところの――を呼びに、近くまで自転車を走らせたのであった。

「おいS、俺の家へ、いま男爵閣下がお見えになったんだ。いっしょに飲もう。」

「へえ、珍客だな、しかし何という男爵様なんだい。」

「伊田見っていうんだ。」

「ニセじゃないかね。よくそんな奴が田舎を荒し廻るからね。」

「うむ、じつはどうも怪しいから、お前を呼びに来たんだ。