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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《田原氏の犯罪(たはらしのはんざい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 頁

青空文庫

二人はそれきり黙ったまま、ぼんやり庭の方を眺めた。風も無い庭の木立が、如何にも静まり返っていた。

その時女中が田原さんに、お湯の沸いたことを知らして来た。

徳蔵はその時急に立ち上って帰ろうとした。

「おい一寸待ってくれ。」

田原さんはそう云いながら立って行って、何程かの金を紙に包んで、それを徳蔵に与えた。

「いや旦那、これは頂けませんや。」

そして徳蔵はその包みを縁側に置いた。

「なぜだ? 取っておけばいいじゃないか。」

「なぜでもいけませんや。」

「なにいくらでもないんだから取っておおき。そしてそのうちで何かみよ子に買っていってやるがいい。」

徳蔵は急に眼を輝かした。

「それじゃ頂きます。みよは饅頭が好きだから、一つ馬鹿に大きいやつを買っていって喜ばしてやりましょう。……それじゃ旦那、大変お邪魔をしちまいました。」

徳蔵は丁寧に頭を下げた。それから勝手の方へ廻ってしげ子に挨拶をして、帰って行った。酔もさめたらしく、重い足取りをして歩いていった。

田原さんはそれから庭に水を撒き、湯にはいり、夕食の膳に向った。然し彼は内心が妙に疲れていた。それも彼自らが称して「最も悪い疲労」