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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《田原氏の犯罪(たはらしのはんざい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 頁

青空文庫

二

それでも止むを得ない用の外は、いつも晩まで店に居られますそうですが、丁度今日はお出にならない所に行き合わせましたから、遅くなりました。」

田原さんは口元に笑みを浮べながら、良助のませた言葉をきいていた。そして彼の心に喜ばしかったものは、良助の「善意の解釈」であった。

重夫は父を以て余りに「善意の解釈」をなし過るものとして、常に父の欠点の一に数えていた。それが田原さんを尊敬し心服している怜悧なる良助にも在った。

田原さんは今、重夫のその言葉を思い出したのである。「善意は度を過せば悪意となる。」と重夫は云っていた。然し田原さんにとっては、善意は常に善意であった。否それは、善意悪意を通り越した「彼に自然にそうある」ものであった。そして富と閑散とを有し四十歳を越した彼の心は、それで常に静かであった。

二

過去の話。

その一――

或年の暮れ、神保町の店で一つ不正事が発覚した。感応コイル三個、加減抵抗機二個、及び電流計一個が不足していたのである。帳簿には、それだけの品物は正しく店にはいってい、代金も支払われているのに、品物は店に無く而も売却せられたことにもなっていなかった。