輕讀日語

輕鬆讀懂日語經典作品

ja-reading.com

輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。

しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《真珠夫人(しんじゅふじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 頁

青空文庫

父の心が、急にふと変ったのだろう。

「あ、そう。やっぱり一寸見て置くかな。どうせ贋に定っているのだが。」

そう云いながら、父は瑠璃子の手から、その包みを取り返した。父は包みを解いて、箱を開くと遉に丁寧に、中の一軸を取り出した。幅三尺に近い大幅だった。

「瑠璃さん! 一寸掛けて御覧。その軸の上へ重ねてもいゝから。」

瑠璃子は父の命ずるまゝに、応接室の壁に古くから懸っている、父が好きな維新の志士雲井龍雄の書の上へ、夏珪の山水を展開した。

先ず初め、層々と聳えている峰巒の相が現れた。その山が尽きる辺から、落葉し尽くした疎林が淡々と、浮かんでいる。疎林の間には一筋の小径が、遥々と遠く続いている。その小径を横ぎって、水の乾れた小流が走っている。その水上に架する小さい橋には、牛に騎した牧童が牧笛を吹きながら、通り過ぎている。夕暮が近いのであろう、蒼茫たる薄靄が、ほのかに山や森を掩うている。その寂寞を僅かに破るものは、牧童の吹き鳴らす哀切なる牧笛の音であるのだろう。

父は、軸が拡げられるのと共に、一言も言葉を出さなかった。が、じっと見詰めている眸には感激の色がアリ/\と動いていた。