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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
線上閱讀菊池 寛《真珠夫人(しんじゅふじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 頁
三
が、ガソリンが爆発を始めて、将に動き出そうとする時だった。信一郎は、周章て窓から、首を出した。
「おい! 静子! おれの本箱の下の引き出しの、確か右だったと思うが、ノートが入ってる。それを持って来ておくれ!」
「はい。」と云って気軽に、立ち上った妻は、二階から大急ぎで、そのノートを持って降りて来た。
『これが、武器だ!』信一郎は、妻の手からそれを受けとりながら、心の中でそう叫んだ。
爪黒の鹿の血と、疑着の相ある女の生血とを塗った横笛が、入鹿を亡ぼす手段の一つであるように、瑠璃子夫人の急所を突くものは、青木淳の残した此のノートの外にはないと、信一郎は思った。
三
五番町までは、一瞬の間だった。
こうした行動に出たことが、いゝか悪いか迷う暇さえなかった。信一郎の頭の中には、瑠璃子夫人の顔や、妻の静子の顔や、非業に死んだその男の顔や、今日客間で見たいろ/\な人々の顔が、嵐のように渦巻いている丈だった。が、その渦巻の中で彼は自ら強く決心した。『彼女の誘惑を粉砕せよ!』と。
もう再びは潜るまいと決心した花崗岩の石門に、自動車は速力を僅に緩めながら進み入った。もう再びは、足を踏むまいと思った車寄せの石段を、彼は再び昇った。