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しんぴこんちゅうかん

神秘昆虫館

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神秘昆虫館(しんぴこんちゅうかん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,803 字 · 213 頁

青空文庫

湯気が渦巻き立つ。それを貫いて斜かいに、黄金色の線が引かれている。すなわち黄金の杖である。そろそろとそれが引き上げられた。と杖の先が現われた。弧を描いてその先が、部屋の空間へ差し出された時、ポッツリと一滴水銀色の滴が、石畳の上へしたたった。ボーッと上がったのは煙りである。石畳へ出来たのは小穴である。幽かな顫えを見せながら、杖の先が延びて行く。それの止まった正面に、両袖で顔を蔽い隠した、桔梗様の姿がうずくまっている。それを黄金の杖で繋ぎ、向かい合って延々と立っているのが、女方術師の華子である。

黒の道教の道服を纒い、真っ直ぐに立っている華子の姿は、太くて円い墨の柱が、一本立っているようであった。その頂上に白い物がある。仮面のように冷静な顔である。まくれ上がった唇から、上の前歯が露出している。鈍い銀色の真珠貝、そんなように見える二つの眼が、一点をじっと見詰めている。

「さあ桔梗様、両袖を、顔からお取りなさいまし」

命ずるような声である、催眠性を持った声である。反抗することは出来ないだろう――そんなように思われる声であった。

「はい」

と云ったのは桔梗様である。