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かがりびのおんな

篝火の女

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《篝火の女(かがりびのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,727 字 · 56 頁

青空文庫

齲歯むすめ

丘も馬も暫しを眠っている、明日はどこに陣をすることか、水かさの増した大河を蕭条と打って、雨はいよいよ暗い。

齲歯むすめ

南部馬だの、鉄だの皮革だの、又砂金などを小田原へ売り込みに来る奥州船は、帰りには、織物雑穀などを仕入て、御幸浜から碇を抜く。

それへ、大勢の旅客も、ごたごた便乗していた。

雨が霽ったので、

『晴れましたぜ、いい按配に、波も穏かで』

客は、船底から這いだした。

『よく降りましたな。あなたは、どちらですか』

『石巻で』

『そちらは』

『わしゃあ、塩竈だが』

『御遠方だな。どうです、儲かりましたか』

『戦のお蔭で、今年はこれで二度目の行商でさ。百姓衆にはお気の毒だが』

『こんどの軍も、大きくなりそうですぜ。さしもの武田勢も、信州武州までは、一捲きにして来たが、上州箕輪の城が落ちない。松井田城と安中城のふたつも、安中越前守と、三郎進という父子の両大将が守っていて、これも頑としている。北条様からも五、六千人繰り出しましたが、どうも、長引くでしょうな』

そんな話声に背を向けて、先刻から荷梱へ倚りかかって居眠っている百姓娘があった。草鞋ばきでもんぺを穿き、無造作に束ねた髪へ、藁ごみがたかっている。