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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

郵便局の制服は脱いで、借りものの沖仲仕の仕事衣を着ている。永田組部屋仲仕のほかに、「バゾク」と称する、組に所属しない浮浪仲仕も、何人かまじっていたので、時次郎もその「バゾク」の一人のように見え、特に、彼に注意する者もなかった。

時次郎の関心は、ただ、玉井金五郎の言動にあった。

「来た。来た」

と、松川源十の方の船で、声があがった。みんなは、一斉に、沖の方を見た。

六連島を背景にして、一隻の汽船が、左に赤、右に緑、檣に白の航海燈をともして、こちらに、近づいて来る。霞んだ暗い海のうえに、光を鏤めた黒い船体が、幻のようである。パナマ丸は、ボウオッと、重々しいひびきを立て、白い蒸気をふきあげて、入港の汽笛を鳴らした。

「よし、漕げ」

と、舳に立ちあがった金五郎は、弾んだ声で、叫んだ。

二隻とも、二挺の櫓を立て、パナマ丸に向かってではなく、港内に舳を向けて、漕ぎだした。

待ちくたびれていた伝馬船内に、俄かに、活気がみなぎって来た。

港口に近づくと、汽船は速力を落す。それでも、人間の漕ぐ伝馬船には、すぐ追いつく。間近に、ビルディングのようなパナマ丸の巨体が、近づいて来た。