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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

この海は、支那大陸へ、一直線に続いている)

嘗て、青春の夢にとりつかれ、放浪と漂泊の情熱に全身を灼かれたとき、つねに、その若々しい志は、はるか支那の天地につながれていた。自由を求め、ひろびろとした世界に出て、龍となって昇天する筈であった。それなのに、今は、北九州の一角、若松という不自由の天地に、土龍のように跼蹐している。泳ぎながら、金五郎は、左腕を見る。直径三寸ほどの白い筋肉の丸太のうえに、ものものしく眼玉を光らせた一匹の龍がいる。角や髭など生やし、えらそうにしているけれども、この腕の中から、出ることも出来ねば、動くことも出来ない。金五郎は、笑いだしたい衝動をしきりに感じた。

しかし、実は、金五郎の胸の中は、この哀れな龍よりも、もっと、せせこましく、偏狭になっていたのであった。

(どうも、マンと、時次郎とが、怪しい)

はじめて湧いた疑念である。

(おれが焼き餅を焼くなんて……)

邪念を蹴とばすように、心中で呶鳴ってみても、ひとたび、胸奥に生じた疑心暗鬼は消えなかった。

大川時次郎がマンに惚れ抜いていることは、百も承知だ。それなのに、マンを迎えに行くという時次郎の申し出を許したのは、マンを信じきっていたための寛厚さであった。