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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

線上閱讀火野 葦平《花と龍(はなとりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 頁

青空文庫

第一部

男と女

しかし、金五郎は、この金は、父が山を売って、苦心の果てに、こしらえたものだ、ということを知っていた。

金五郎は、いったん入れた金を取りだした。三十円だけにした。そして、「一金参拾円也、拝借仕候」という証文を書いて、そこへ残した。こうして置かないと、また、嫂が、「金坊が、三百円も盗んで行ったぞな」というのに、きまっている。

また、金五郎は、いつか、この金は、かならずかえすつもりであった。

着換えなどを、風呂敷に包んだりして行くと目立つので、六枚も、重ねて着た。ちょっとそこへ行って来る、というような恰好で、家を出た。汗がどんどん流れだし、道後の湯に浸っているような気持であった。

それきり、彼の姿は、この村では見かけられなかった。

明治三十六年、初夏。

玉井金五郎、二十四歳。

第一部

男と女

門司港。

風師山のいただきを、強い風のわたっているのが、海鳴りのように聞える。二百十日が近づいた、その前ぶれかも知れない。遠くで、風の合間を縫って、汽笛が鳴る。

桟橋下の貯炭場を、すぐ前に望む、浜尾組の事務所に、あかあかと、灯がともっている。奥座敷に、大勢の人かげがうごき、なお、ぞくぞくと、集まって来る。