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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《落ち梅記(おちばいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 頁

青空文庫

そしてそこには、二人が結びつくべき条件が、ごくしぜんに成長していた。

――鏡を貰ってゆかないと心が残るようだ。

由利江はそう云った。それがなにを表明するかは余りに明瞭である。ひとをとおさず、自分でじかに公郷とのゆくたてを話したが、それは二人のあいだに感情の親しい黙契がある証拠ではないか。

「いけないと云うべきだった」金之助は独りで幾たびも呟いた、「おれは正直でなかった、これでもし由利江が不幸になるとすれば、それはみんなおれの軽率の責任だ」

もちろんそれを取返す法はない。事はもう定ってしまったのである、これからは由利江を不幸にしないために、半三郎を立ち直らせるのがせめてもの償いである。――こう自分を説きつけるあとから、すぐにまた由利江を失ったことの後悔と、根づよいみれんに悩まされるのであった。

藩主からの特旨で、父の助左衛門は夏いっぱいの静養が許された。緊急を要する事務は居宅で執ってよしということで、役所の者の出入りが多く、金之助にも多忙な日が続いた。病状には変化がなかった、というよりも、あの夜から二三日すると手の痺れも消え、どこにも異和らしいものは感じられなくなった。