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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《落ち梅記(おちばいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 頁

青空文庫

五

――出仕し始めて間もない或る日、藩主若狭守から、「父からなにか聞いて来たか」という質問をされた。どういう意味かわからなかったが、身命を惜しまずという訓戒をうけたことを答えた。若狭守貞継はなにかじっと思い耽るような眼をした、それから気を変えるように頷いてこう云った。

「いろいろむずかしい事がある、そのうち申し聞かすが、父の言葉を忘れずにつとめて呉れ」

しかしそう云った貞継が、間もなく病気で倒れたのである。

五

藩主の病臥が触れだされたのは年が明けて二月のことだった。侍医が政務を執ることを禁じたので、老臣の合議によって藩政の処理がおこなわれることになった。しぜん金之助の側用人という職は名のみとなり、次席家老は国許の席に属するので、老臣会議にも殆んど形式に顔を出すだけの、まったくひまな身の上になった。

金之助は身にいとまが出来たので、中屋敷にいる若殿へ挨拶にいった。出府したときいちど伺候したのだが、そのときは会えなかったのである。こんどは引見を許されたが、扱いはごく冷淡であった。――五年のあいだ学友としてお相手にあがり、思い出も少なくない、その頃の話が出るだろうと、ひそかに楽しい予想をしていた。