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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《落葉の隣り(おちばのとなり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 頁

青空文庫

盃を持つ手がふらふらし、盃の酒がこぼれた。繁次は肱を突いた左の手で顔を支え、なにかを耐え忍ぶように唇を噛んだ。

「――落葉に雨の音を聞く」

三人伴れの向うの客の一人が、いい声でうたいだし、その伴れがやじを入れたので、唄はそれっきり聞えなくなった。

「なつかしいな」繁次は眼をつむった、「あの人はおつぎといったっけ、――もうすぐよって、こういう気持がわかるようになるには、学問も金もいらないからねって」

そうだ、学問もいらず金をかけなくっても、いつかはみんなそういう気持を味わうときが来るんだ。いまから思うと、おれはもうあのとき、ああいう気持がわかっていたらしい、だからあの唄ばかりうたってたんだ。へ、だらしのねえやつだ、と彼は思った。

「もう忘れちゃったなあ」繁次は眼をつむったまま、さぐりさぐり、口の中で低くうたいだした、「――落葉に雨の音を聞く、隣りは恋のむつごとや……」

彼はつむった眼にぎゅっと力をいれた。

「あたしその唄だい好きよ」と女が云った、「あとを聞かして」

女が戻って来たのを知らなかったので、繁次は吃驚し、盃の酒をまたこぼした。女は布巾で台の上を拭き、燗徳利を取りあげた。