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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《落葉の隣り(おちばのとなり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 頁

青空文庫

四

「ええ」とおひさは頷いた、「やってみるわ、まあ坊さえいなければあたし死ぬつもりだったんだもの、やれるだけやってみるわ」

繁次は母に、金を届ける、と云って、まもなくいとまを告げた。年期奉公には、場合によって主人から金を借りることができた。繁次は借りなかったので、少しぐらいならどうにでもなった。

「参吉とそんな話をしたのか」店へ帰る途中で繁次はそう呟いた、「――おれにはそんなことは云わなかったがな、いつそんな話をする暇があったろう」

そのときまた、胸の奥にあの痛みが起こった。繁次はわけがわからず、立停ってそっと、片手で胸を押えた。

四

十九の年の十一月、繁次は初めて居酒屋へはいって、初めて独りで酒を飲んだ。それまでにも祭礼とか祝いごと、正月などに、兄弟子たちにしいられて舐めるくらいのことはあったが、盃に二つもやると躯じゅう火がついたように熱く、いまにも心臓がとび出しそうになるので、酒と聞いただけでも逃げだすようにしていた。

だがその日は飲みたかった。人の酔うのは見ているから、そんなふうに酔えれば有難いし、酔えなくとも、ただ苦しくなるだけでもいい、思うさま自分を苦しめてみたい、というような気持であった。