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しょうしょうじゅうさんねん

蕭々十三年

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《蕭々十三年(しょうしょうじゅうさんねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,105 字 · 16 頁

青空文庫

「しかし家中の人数を検めてみればわかるではないか」

「それは早速検めたのですが、家中いちにんも欠けた者がございませんでした、風態は武士にまぎれもなく、おそらく城外より入りこんだものと思われまするが、不審のままわたくしはお使者に立ってまいりました」

家中の人数に欠けた者がないとすれば、城外からまぎれこんだ者にちがいない、しかし城内の地理を知らぬ者が、焔硝蔵の危険に気付くのはおかしい、白山曲輪に火がかかったとみて、すぐに駆けつけるからはようすをよく知った者でなければならぬはずだ。しかもおのれの身を殺して蔵を救う断乎たる態度は、岡崎城に縁故のない者にできることではない、――なに者だろう。忠善はずいぶん考えてみたが分らなかった。その翌日第二の使者が着いた、一日おいて第三の使者が来た、それでもその死者の正躰はわからずじまいだった。

明くる寛文十一年十一月、忠善は参覲のいとまが出て岡崎へ帰った。そうしてある朝、馬場で馬をせめているうちに、ふと思いついて矢矧川の堤へと遠乗りに出た。……霜のふかい朝だった、まだ明けて間のない時刻で、刈田や野づらには、低く灰色の狭霧が条をなしてたなびいていた、路傍の笹簇も、枯れた茨のしげみも、まっ白に霜をかぶって、きびしい朝寒の空気のなかに、じっと息をひそめているかの如くみえる。