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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁
千生はそのお初を食って直ぐに出たのであるから、早く行けば幾らか分けてもらえるに相違ない。急げ、急げと千生は再び芝居がかりで指図した。
「ありがとうございます。では、そうしましょう。」
お熊はよろこんで駈けて行った。千生は一体どこへ行くつもりであったのか知らないが、俄かに思い付いたようにほほえみながら、金龍山下の方角へ足をむけた。彼は延津弥の家の前に立停まって馴れなれしく声をかけた。
「師匠、内ですかえ。」
広くもない家であるから、案内の声はすぐに奥にきこえて、延津弥は入口の葭戸をあけた。
「あら、千生さん。」
「お邪魔じゃありませんか。」
「いいえ、どうぞお上がんなさい。」
かねて識っている仲であるので、千生はずっと通って何かの世間話をはじめた。千生の肚では、こうして話し込んでいるうちにお熊が帰って来て、このおはぎは千生さんの家から貰ったと言えば、延津弥もよろこぶに相違ない。自分の顔もよくなるわけである。恩を売るというほどの深い底意はなくとも、師匠の口から礼の一つも言われたさに、彼はわざわざここへ訪ねて来たのであった。途中でお熊に出逢ったことを彼はわざと黙っていた。