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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁
それから飛んだ引合いを食って、千鳥の店ではひどく迷惑した。もちろん千鳥の店の者は何の障りもなかったのである。
殊におどろいたのは千生の長之助で、自分もどんな巻添いを受けるかも知れないという恐怖から、七月二日以来、どこかへ身を隠してしまった。
七月六日の暗い宵に、千鳥のお兼がそっと金龍山下の師匠をたずねた。お兼は四十三で、年よりも若いといわれていたのであるが、今度の一件と、それから惹いて大事のひとり息子の家出の苦労で、わずか四、五日のうちにめっきり老けて見えた。
お熊は近所の湯屋へ行って留守であった。延津弥はきのうから起きたが、髪はまだ櫛巻きにして、顔の色も蒼ざめていた。知合いの仲であるから、お兼はすぐに通されたが、今夜の対面は双方とも余り快くなかった。お兼の方からまず口を切った。
「今度はおたがいさまに、飛んだ迷惑で困りました。そこで早速ですが、せがれの長之助はその後にこちらへ参りましたろうか。」
「いいえ。」と、延津弥は情なく答えた。「二十九日から一度も見えませんよ。」
「ほんとうに参りませんか。」
「見えませんよ。千生さんだって、うっかりここの家へ顔出しも出来ないでしょうから。