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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁

青空文庫

これは橋番が内職にしている放しうなぎで、後生をねがう人たちは幾らかの銭を払ってその幾匹かを買取って、眼のまえを流れる大川へ放してやるのであった。

「ああ、そうかえ。」と、おやじは急に笑い出した。「じゃあ、お前、当ったね。」

その声があまり大きかったので、平吉はぎょっとしたらしく、あわててまた左右を見廻したかと思うと、その内ぶところをしっかりと抱えるようにして、なんにも言わずに一目散に駈け出した。駈け出したというよりも逃げ出したのである。彼は転げるように両国の長い橋を渡って、半分は夢中で相生町の自分の家へ行き着いた。

ひとり者の彼はふるえる手で入口の錠をあけて、あわてて内へ駈け上がって、奥の三畳の襖をぴったりと立て切って、やぶれ畳の上にどっかりと坐り込んで、ここに初めてほっと息をついた。かれは橋番のおやじに星をさされた通り、湯島の富で百両にあたったのである。かれは三十になるまで独身で、きざみ煙草の荷をかついで江戸市中の寺々や勤番長屋を売り歩いているのであるから、その収入は知れたもので、このままでは鬢の白くなるまで稼ぎ通したところで、しょせん一軒の表店を張るなどは思いもよらないことであった。