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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
線上閱讀夢野 久作《近世快人伝(きんせいかいじんでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 頁
八代大将の松葉も、湊屋仁三郎の短命術も太陽の前の星の如くに光を失わずにはおられなかった。
「そもそも鯨というものは」……というので咳一咳。先ず明治二十年代の郡司大尉の露領沿海州荒しから始まって、肥後の五島列島から慶南、忠清、咸竟南北道、図們江、沿海州、樺太、千島、オホーツク海、白令海、アリュウシャン群島に到る暖流、寒流の温度百余個所をノート無しでスラスラと列挙し、そこに浮游する褐藻、緑藻の分布、回游魚の習性を根拠とする鯨群の遊弋方向に及び、日本の新旧漁法をスカンジナビヤ半島の様式に比較し、各種の鯨の肉、骨、臓器、油の用途、価格、販路、英領加奈陀との競争状態といったような各項に亘って無慮、数千万語、手を挙げ眉を展ばして熱弁する事、約二時間半、夕食が終って、電燈が灯いてもまだ結論が附かない。やっと二度目のお茶が出てから、
「今の鯨の肉は、鯨の尾の附根に当る処で、肉の層がアーチ型になっている処です。鯨肉の中でも極上飛切の処で、小鳥や牛肉でも追付かない無上の珍味だったのです」
という結論が附いた。しかし残念な事にこの時には流石に謹厳剛直の国家的代表者、八代大将閣下も、武谷広博士も完全に伸びてしまっていた。