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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《重吉漂流紀聞(じゅうきちひょうりゅうきぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 頁

青空文庫

板子といっしょに朽ちさせるより、いっそ清く海へ流してしまおうと思う。だが、いますぐというわけではない。一と月のあいだ待っているから、どうでも陸の土に葬ってもらいたいなら、夢にでも出て告げてもらいたい」

と生きた人間にいうようにいいきかせた。

十二月の二十三日まで待っていたが、それらしい夢も見ない。それで翌日、夕方になるのを待って三人で死体の始末にかかった。

雑倉の板扉をおしあけると、久しく閉めきったままになっていたので、えもいえぬ臭気がたちこめ、ほとんど目もあけられない。かすかに夕陽の光のさしこむ仄暗いあたりに、おぼろげに人のかたちをしたものが、渚に流れ着いた流れ木といったぐあいに落々と横たわっている。見る眼にもおどろしい眺めであった。身についた肉はみな溶け流れて骨ばかりになり、その骨も腐れきって泥と化し、触れるそばからハラハラと砕けてしまう。抱くことも抱えることも出来ないので、頭骨も手骨も諸共に叺にさらえこみ、土を運ぶようにして海へ流した。

そこまでのことは誰一人考えなかったが、何十匹とも知れぬ鱶が人骨の香を慕って集まって来、船についていた魚の群を追い散らしてしまい、それからはただの一匹も魚が釣れなくなった。