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きんごじゅうりょう

金五十両

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《金五十両(きんごじゅうりょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,843 字 · 23 頁

青空文庫

「旅籠をよしたんなら、御宿という看板を外すがいいんだ」

「それはそうなんですが、いまお茶屋は御禁制になってるもんですからね、それに場所が場所で旅の方なんかのいらっしゃることはないし、……お一ついかが」

「これで貰おう」

男は汁椀の蓋を取って差出した。

「この家がそういう仕掛になっているならこっちも気は楽だ、もっともどっちにしたところで、たいしたことはないがね」

「なにがたいしたことはないんですか」

「なにもかもさ、いつかみんな死んじまうということの他、世の中にあ一つもたいしたことなんぞありゃしないと云うのさ」

「おやおや、まだこれからというお年で、たいそう年寄りくさい事を仰しゃるんですね」

お滝は膳の上から盃を取り、自分で酌をして一つ飲んでから、弟を見るような眼で微笑した。

「さんざんいい事をし尽して、ちょっと世の中に飽きがきたというところですか」

「違えねえ」

男はとつぜん笑いだした。

「さんざんいい事をしてな、まったくだ、図星だよ」

片手を後ろへ突き身を反らせて、まるでひきつるような、かさかさに乾いた笑いだった。その笑い声がなにかの古い傷にでもしみたように、お滝は眉をしかめながらいやいやをした。