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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(九) 全十冊

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(九) 全十冊(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,029 字 · 82 頁

青空文庫

銭形平次捕物控

一

一

「親分、四谷忍町の小松屋というのを御存じですか」

「聞いたことがあるようだな――山の手では分限のうちに数えられている地主かなんかだろう」

銭形平次が狭い庭に下りて、道楽の植木の世話を焼いていると、低い木戸の上に顎をのっけるように、ガラッ八の八五郎が声を掛けるのでした。

「その小松屋の若旦那の重三郎さんを案内して来ましたよ。親分にお目にかかって、お願い申上げたいことがあるんですって」

そう言えばガラッ八の後ろに、大町人の若旦那といった若い男が、ひどく脅えた様子で、ヒョイヒョイとお辞儀をしているのです。

「お客なら大玄関から――と言いたいが、相変らずお静が日向を追っかけて歩くから、あそこは張板で塞がっているだろう。こっちへ通すがいい」

「ヘッ、そこは端近、いざま――ずっと来たね。若旦那、遠慮することはない。ズイと通って下さいよ」

八五郎の剽軽な調子に誘われるように、身扮の凝った、色の浅黒い、キリリとした若いのが、少し卑屈な態度で、恐る恐る入って来ました。せいぜい二十歳そこそこでしょうか、まだ世馴れない様子のうちに、妙に野趣を帯びた、荒々しさのある人柄です。