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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《陰獣(いんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 頁

青空文庫

春泥の名前がパッタリ雑誌に見えなくなったのは、私はよく覚えているが、おととしの暮からなんだ。それとね、小山田さんが外国から帰朝した時と――あなたはそれがやっぱり、おととしの暮だって云ったでしょう。この二つがどうして、こんなにぴったり一致しているのかしら。これが偶然だろうかね。あなたはどう思う?」

私がそれを云い切らぬ内に、静子は部屋の隅から例の外国製乗馬鞭を持って来て、無理に私の右手に握らせると、いきなり着物を脱いで、うつむきにベッドの上に倒れ、むき出しのなめらかな肩の下から、顔丈けを私の方にふりむけて、

「それがどうしたの、そんなこと、そんなこと」と何か訳の分らぬことを、気違いみたいに口走ったが「サア、ぶって! ぶって!」と叫びながら、上半身を波の様にうねらせるのであった。

小さな蔵の窓から、鼠色の空が見えていた。電車の響きであろうか、遠くの方から雷鳴の様なものが、私自身の耳鳴りに混って、オドロオドロと聞えて来た。それは丁度、空から、魔物の軍勢が押しよせて来る、陣太鼓の様に、気味悪く思われた。恐らくあの天候と、土蔵の中の異様な空気が、私達二人を気違いにしたのではなかったか。