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まと
魔都
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《魔都(まと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 頁
「ねえ、噴水さん、あのひとを御覧なさい、あのひとはあれでも王様なのよ、ふ、ふ、髯なんか生やしていてもちっとも恐くないのよ」
というと急に加十の頭を引寄せて、唇に接吻し、
「ほらね、ちっとも怒らないでしょう、馬鹿ねえ、王様なんて」
思うにこれは王様に妬情を起させようという鶴子の手管なのであろうが、それにしてもこの王様と呼ばれる男は何という奇妙な人物なのであろう。ゆったりと椅子の脊に身を凭らせながら柔和な眼を微笑えませて、泰然と鶴子の痴態に見入っている。とすれば鶴子が焦れったがるのも無理はないのである。
鶴子は加十の膝の上で何かウダウダ言っていたが、やがて急に床の上に飛び下りると、
「脚にスウスウ風があたる。きっとどこか明いてるんだわ」
と言うと、案外にしっかりしたあしどりで廊下の方へ出て行ったが、まもなく戻って来て、
「やっぱり玄関のドアが開いていたわ。妙ねえ、確かにさっき閉めた筈なのに」
と急に真面目な顔つきになって考え込んでいたが、すぐ笑い出し、
「ああ、そうか、妾が閉めたんじゃなかった、王様が閉めたんだったわねえ、そんなら開いてる筈だ。……ねえ、噴水さん、王様の国ではどの家にもドアというものが無いんですって。