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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

啓之助をアアして、お吉さんをアアして、宅助をアアして、家へも帰らずに、男を探し廻っている女だもの」

小菊紙を出して、口をふいた。

軽い咳といっしょに、紅梅みたいなものがついた。見たくないものを、見るのが癖になっている。

「もう……どうなとおなり」

昼の月へ向いて、笑った顔が、自分ながらあさましかった。

そうして、うしろへ手をついていると、辻堂の横に、野鼠でもいるような音がするので、ヒョイと、居形のまま顔を向けてみると、そこに、紐の宅助が、皮肉な面がまえをして、お米の気がつくまで睨んでいた。

「あらッ――」

と、さすがにぎょッとしたけれど、もう逃げだしても間に合う筈はない。

度胸をきめて、お米はジッと黙っていた。

ふところに、拳をこしらえながら、宅助も睨んだ眼を向けたまま、黙って、女の姿態を見つめていた。

しかし、言葉は借りなくとも、その間のふたりの心は、剃刀のように研げて争っている。宅助の眉間には、殺してもあきたらないほどな遺恨が燃えているし、お米のくちびるには、殺されるだろう、と胸にこたえているおののきがある。

「おい……」

と、だんだん寄ってきた。