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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

「あ」

思わず、足をとめて、うしろの者の手くびを握った。

やわらかい、きゃしゃな女の手であった。そして、絹か髪の毛か、ひんやりとしたおののきが腕に触る……。

かれはつばの広い編笠をかぶっていた。一方の手をそれへかけて、自分の背なかへ隠れた女の姿を見ようとしたが、同時に、

「この武士め」

と、何者かの骨ばった拳が、襟をつかんでねじあげてくるなり、

「野郎ッ、な、なんで、その女をかばいだてしやがる」

と、目をいからせている。

弦之丞は呆然とした。

何がなんなのか、わけがわからぬ。

ことにかれは、きょう船宿の鯉屋の二階へ、お綱をのこしておいて、ただ一人、猫間川の岸からこのあたりへ、ゆうべの船と、あのまま帰らなかった万吉の姿をたずねてきたところなので、歩みつつもおのずから、心のうつつなところがあった。

今、なんの気もなく、向うの百姓家で道をきき、森に添ってこの辻堂のわきに出てくると、その途端に、これなのである。

まったく、思いがけない言いがかりだ。

「こやつ、少し血迷っているな」

と思いながら、グイと、対手の押してくるのをこらえきると、男は、馬のような前歯をかみしめて、