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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

お吉は、今の良人の容体ではとても起たれないのを覚悟しているので、ふたりが立つのを、病人が気どらないようにと祈っている。で、その合図も心得ている筈だった。

何か手離せないことがあるのだろうと、お綱はしばらく梯子の下にたたずんでいたが、なかなかお吉は降りてきそうもなく、病人のじりじりした調子で、

「むむ、いまいましい……早くどうかしてくれ、おれの体を。おれはまだ剣山まで行かなくッちゃならねえ。……お吉ッ。医者を代えてくれ、医者をよ。こんな気の永え療治なんかを待っていられるものか」

という声がひびいてくる。

中二階の悲痛な声を耳にすると、大事の前の小事と、心を鬼にしてきた弦之丞も、かれを残して去ることは情においてしのびなくなった。

梯子の下にしゃがんだまま、お綱もさすがに後ろ髪をひかれている。

「ううむ……また痛みはじめてきた。お十夜のやつに斬られた傷が……お吉、ほかの医者にみせてくれ、この傷が……この傷さえどうにかなれば、立てねえという筈はねえ。阿波へくらい、行けねえということはない」

「あ、お前さん、そんなに無理に動くと、よけいに後が悩むじゃありませんか」