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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

下緒を解いて、片だすきに袖を結び、隅の釣戸棚へ目をつけてスルリとその中へ身軽に跳ね上がった。

「啓之助、啓之助」

はずされた天井板の隙間から顔だけが白く見える。

「何でございますか」

「後ろを閉めてくれい、その、釣戸棚の袋戸を」

「暗うなりますが」

「かまわぬ」

「は」

と、かれはそこを閉めた後の森とした天井裏を見あげていた。――ミリッと梁のキシむ音が静かに奥へ消えてゆく。

と。ひと足違いに――

「おや、三位卿様はどうなさいましたか」

湯上がりでもあるらしく、艶に、薄白粉を粧ったお久良が、着物をかえて、部屋の前にたたずんだ。

ぎょっとしたが、啓之助、さあらぬ顔で、

「お、御退屈をまぎらわしに、今し方、庭下駄をはいて前栽のほうへ出られたが」

「そろそろお時刻が近づきました」

「ム、もう一刻ばかりじゃの」

「あまり間際に迫りませぬうち、天神の船待場の方へ、私が御案内申しまする」

「そうか……それは大儀……ム、では三位卿が見えられたら、すぐに支度をするであろう」

と落ちつかぬ自分の所作に気がついて、またそこへ坐りなおした。

お久良の眼は、有村の空席に散らばっている、藁ゴミをじっと見ていた。