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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

と、姉らしいほうの少女がわずかにうなずいた。

「じゃ知っているだろう! たしか向う側の隅に蓆をかぶせてあったと思う、三ツのつづらが置いてあった筈だが、それを誰がいつ運びだしたか、知っていたら教えてくれい」

弟であろう、十か九ツくらいな子、姉の胸に抱かさりながら、

「たッた今だよ」

と少しふるえながら答えた。

「今? ふム……」

「たッた今――小父さんたちがここへ来てから」

「そうではあるまい、見なかった」

「嘘じゃアない、本当だよ。その後ろの戸を開けてそッと裏のほうへ持ちだして行ったンだ」

また先を越されたな! と有村は唇を噛んだ。

しかし、自分の計画は船の上にあるのだから、お久良とはらを合す者が、巧みにつづらを運び去ったとしても、それはむしろこっちの思う壺へ墜ちて行くのだ! と笑止にも考えられる。

やがてあの親船が、安治川屋敷の裏へかかれば、水見番の詰所には天堂一角が見張っており、周馬や孫兵衛も手ぐすね引いて待ち構えている! もうどんなことがあろうと、ここまで追い込んできた網の目から、かれらは遁れることはできない。

こう信じて三位卿は、ゆうゆうとそこを引き揚げた。