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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

焔をゆたぶられた松薪の火、パチパチパチパチ火の粉を降らせた。

で、一角と森啓之助。

ふたつのつづらの側へわかれて立ち、検分の格でその蓋へ手をかけた。そして、

「有村様」

と名だけ呼んでかれを見上げた。

今こそこの赫々とした焔の下に、死に瀕した法月弦之丞の姿を見るのだ――といううなずき合いの眼、拈華微笑だ。三位卿もただちょっと顎を下へ動かしたばかり、

「では」というと、蝶番の金具がキイと……悲しむように鳴った。この一瞬になると、並いるもの誰彼の境なく、痛快とか悲壮とかいうものを超えて、一種の凄気に歯の根が咬みしまる。

ぽんと、棺の蓋が開かれたように、血腥さいつづらの中が覗かれた。

一角が手にかけたほうには、血でこね廻したような男の体がかがまっていた。何のためらいなく、被われている物をズルズルと引っ張りだしてみると、その夕べ、弦之丞が面をくるんでいた紫紺色の頭巾の布……。

別なつづらには、蓋を払うと一緒に、青い富士形の藺笠が見えた。

覗きこんだ森啓之助は、

「ウム、見返りお綱だな」

と、少し、無残な念に衝たれて、中からムーッとしてくる血と白粉のまじった匂いに、思わずちょッと顔をそむけた。