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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

と。やがて大寂の丑満すぎ。

船の一隅、潮除けの蔀の蔭に、苫をかぶっていたふたりの客が、ムクムクと身を起こしてあたりの旅客の様子を眺めた。

うごいているのは船暈に悩んでいる者だけであった。

「…………」

何か目と目でうなずきあうと、苫をはねたそのふたり、手と膝とで、松兵衛の部屋のほうへ這いだした。船は坂のように見える。

互に、左右へ気を配って――。

低い達磨部屋の戸の隙から、煤んだ灯の色が洩れている所へ寄ると、

「松兵衛、松兵衛」

ひとりが軽く戸を打った。

「新吉さん」と、またひとりが低く呼ぶ。

見ると、その男女は、天神岸から乗ったあのまんじゅう笠の仲間と手拭の女だ。

達磨部屋の底には、水夫頭の松兵衛と新吉、魚油くさい灯壺を中に挟んで、互に、ものもいわず、ためいきばかりつきあって、暗鬱な腕ぐみをしていたところ。

ゴト、ゴト、と戸が鳴ったので、ひょいと眼を上げたが、風だろう、そう思ってまた首を垂れてしまった。

上には訪れた男女、低い声は潮風に消されてしまうし、大きな声はあたりをはばかるし……としばらく迷っている様子。時々、虚空へさらわれてゆく苫の影にもハッとする。