輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁
血をしぼってなしあげた穏密覚え書の一帖も、江戸の大府へ送り届ける頼りはなし、このまま木乃伊となる肋骨に、抱いてゆくより道はないのである。
「それでいい」
かれは、諦めるよりほかない所へさびしい肯定を落して、
「それでいいのだ……」と重ねて、独り語をいった。
「やがて、おれの死に骸からあの一帖を見出した時には、阿波の武士たちも、いかに大府笹の間の隠密というものが、使命を奉じるに根強いものか、侍根性にない執着をもつものかを知って慄然とするだろう。そして、後には人の口からわしの最期も江戸表へ通じるであろう。しかし、それと共に、仲間で誇る隠密魂もおそらく、この世阿弥の終りと一緒に甲賀組にも亡ぶに違いない。世の中が変っている、わしが江戸を出た時からもう元和寛永の世の中ではなかった。それから十幾年……」
ふと、膝に落ちている合歓の花に目が行った――うす紅い合歓の花。
その優しい膝の花を眺めていると、かれの想像は、ふッと翅が生えたように飛んで、ふたりの可愛らしい少女をとらえてくる。
江戸表に残してきたお千絵であり、腹ちがいのお綱である。
もう二人の娘は、その頃の少女ではないと思っても、かれの想像はやはりあの当時の稚な顔を描いてみせる。